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高松高等裁判所 昭和41年(ネ)26号 判決

控訴人(被告)

西原孝一

被控訴人(原告)

住友林業株式会社

代理人

津島宗康

主文

原判決を次のとおり変更する。

西条市中野字杖谷丙一一五番地山林二二、八六九平方メートル(二町三反一八歩)が被控訴人の所有であることを確認する。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを四分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事   実≪省略≫

理由

一所有権確認請求について、

当裁判所は、訴外株式会社住友本社が昭和一六年一一月二八日控訴人の亡父西原武義から、その所有にかかる西条市中野字杖谷丙一一五番地山林二二、八六九平方メートル(二町三反一八歩)(本件山林)ほか二筆の山林を買受けて所有権を取得したと認定するものであつて、その理由は、原判決の理由中第一項の説示と同一であるから、その記載をここに引用する。<中略>

次に、<証拠>によれば、昭和二三年二月二〇日被控訴人(当時の旧商号は四国林業株式会社)はその設立に際し住友本社から本件山林の現物出資を受けてその所有権を取得したことが認められる。

そうすると、本件山林は現に被控訴人の所有に属するものと認められるから、被控訴人の右所有権確認請求は理由がある。

二所有権移転登記請求について。

本件山林につき、松山地方法務局西条支局昭和三七年九月二六日受付第四四〇九号を以て、昭和三二年二月一八日相続を原因として亡武義から控訴人名義に所有権移転登記がなされていることは、当事者間に争がない。ところで、前認定のとおり本件山林は住友本社が亡武義から買受けたものであるところ、住友本社から更に所有権を取得した被控訴人は、自己が直接控訴人に対し本件山林につき所有権移転登記請求権を有する旨主張するので、以下順次検討する。

(一)  先ず、被控訴人は本件山林の買主たる住反本社の包括承継人であるから、本件移転登記請求は所謂中間省略登記請求には該当しない旨主張する(被控訴人の当審での一の主張)。

しかし、<証拠>によれば、被控訴人(旧商号四国林業株式会社)は昭和二三年二月二〇日新たに設立された株式会社であるところ、右設立に際し住友本社から本件山林を含め資本金一千万円に相当する財産の現物出資を受け、以て右現物出資にかかる財産を個別に取得した結果、本件山林の所有権をも特定承継したものであり、住友本社の包括承継人ではないことが明らかである。尤も<証拠>によれば、被控訴会社はその後同年四月一七日内閣総理大臣から、財閥同族支配力排除法(昭和二三年法律第二号)第九条により、住友本社の「承継会社」として指定を受けたことが認められるが、同法所定の「承継会社」とは、財閥会社等の営業、資産、取引先、役職員、商号等を事実上承継した会社であつて内閣総理大臣の指定を受けたものを指すのであつて、右指定により法律上財閥会社等の権利義務を包括承継するものではないのであるから、被控訴人が右指定を受けたことにより法律上住友本社の包括承継人となるいわれはなく、従つて右指定の事実は前認定を左右するものではない。

そうすると、被控訴人は本件山林の買主たる住友本社から、これを特定承継したものであるから、被控訴人から亡武義(売主)の相続人たる控訴人に対してなす本件所有権移転登記請求は、所謂中間省略登記請求に該当するものと言わねばならない。

(二)  次に被控訴人は、仮に中間省略登記請求に該当するとしても、本件のような場合にはこれを許容すべきである旨主張する(被控訴人の当審での二の主張)。

そして、<証拠>によれば、亡武義は昭和一六年一一月頃住友本社から既に本件山林の売買代金全額の支払を受けていること、住友本社は昭和三八年五月二八日住友不動産株式会社に合併されたのであるが、右両社とも被控訴人が本件中間省略登記請求をなすにつき同意していることが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

しかし、一般に不動産の所有権が甲乙丙と転々譲渡された場合、転得者たる丙は、中間者乙及び最初の譲渡人甲(登記名義人)の同意がない限り、甲に対して直接自己に所有権移転登記請求(所謂中間省略登記請求)をなすことができないものであり(最高裁昭和四〇年九月二一日判決参照)、このことは甲が既に譲渡代金の支払を受けていると否とにはかかわりがないものと解すべきである。けだし不動産登記には、第三者保護のためにも物権変動の過程をできるだけ忠実に反映させて置く必要があり、また物権変動の当事者は、本来その相手方に対してのみ当該物権変動に符合した登記義務を負担するに止まるものであつて、たとえ既に譲渡の対価を受領しているとしても、物権変動の相手方以外の者(転得者等)に対し直接登記義務を負担するいわれはなく、更に裁判所が物権変動の当事者に対し、同人の意思に反して、真実の権利変動の過程と異るいわば虚構の登記の履践を強制することは、到底許さるべきではないからである。

そうすると本件の場合、亡武義が既に売買代金の支払を受け、且つ本件中間省略登記請求につき中間者たる住友本社が同意しているとしても、最初の売主たる亡武義ないしその相続人たる控訴人の同意がない以上(右同意の存在は全証拠によるもこれを認定することができない)、被控訴人は控訴人に対し直接中間省略登記の請求をなすことができないものと言わねばならない。

(三)  次に被控訴人は、住友本社から本件山林の出資を受けその所有権を取得したことに伴い、亡武義に対する所有権移登記請求権の移転も受けて、これを取得したものである旨主張する(被控訴人の当審での三の主張)。

しかし前認定のとおり、被控訴人は住友本社から本件山林を現物出資として譲受けてその所有権を取得したものであり、住友本社の亡武義に対する買主たるの地位の譲渡ないし登記請求権の譲渡を受けたものではないのであるから(住友本社が右所有権譲渡後も亡武義に対する所有権移転登記請求権を失わないことは勿論である)、右主張は採用することができない。

(四)  更に被控訴人は、本件山林の真実の所有者と登記簿上の所有名義人が現に相違しているので、右の違法登記を是正する方法として、控訴人に対し直接移転登記請求権を有する旨主張する(控訴人の当審での四の主張)。

なるほど、登記簿上の不動産所有名義が現に実体関係と符合していないときには、真正の所有者はその所有権に基づき、登記簿上の所有名義人に対し自己に直接所有権移転登記をなすべきことを請求しうる場合も存するのであるけれども、右のような請求が許容される場合は、当該登記名義人が純然たる無権利者であつて、しかもその登記名義が違法に作出された場合(前名義人の意思に基づかない偽造書類による登記や、通謀虚偽表示に基づく仮装登記等の場合)に限られるのであつて、それ以外の場合、例えば不動産の売主の所有権移転後における登記名義の保有が、前記のような違法登記に該当しないことは明らかであり、従つてその転買人が最初の売主(登記名義人)に対し、前記のような移転登記請求をなしえないことは勿論である。

ところで本件の場合、本件山林に関する亡武義の登記名義の保有及びその包括承継の結果たる控訴人の相続登記は、前記のような意味における違法登記に該当するものではなく、ただ控訴人は本件山林の売主亡武義の相続人として、その買主住友本社(現在は合併により住友不動産株式会社)に対し売買契約に基づく所有権移転登記義務を負担している関係にあるに過ぎないのであるから、本件山林の転得者たる被控訴人は、たとえ真正な所有者であつても直接控訴人に対し自己へ所有権移転登記をなすべきことを請求することができない。

以上検討したとおり、被控訴人は本件山林につき控訴人に対し、直接自己に所有権移転登記を求める請求権を有しないのであるから、住友本社に代位して所有権移転登記を求めるならば格別、自己の権利として直接自己に移転登記を求める被控訴人の本訴移転登記請求は、その理由がないものと言わねばならない。

三そうすると、被控訴人の本訴請求中、所有権確認請求は正当として認容すべく、所有権移転登記請求は失当として棄却すべきであるから、これを全部認容した原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第九二条を適用の上、主文のとおり判決する。(奥村正策 越智伝 山本茂)

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